差別克服講座

様々な個人的または集団的属性を理由とする差別を克服するための日常的な努力の方法について考えるブログ

〈反差別〉練習帳[全訂版](連載第45回)

レッスン9:年齢差別(続き)

例題5:
あなたは、何歳以上を法律上成人とみなすべきだと考えますか。

 

(1)20歳以上
(2)18歳以上
(3)その他(自由回答)


 年齢差別と言いますと、前回まで見た高齢者差別(広くは高年者差別)が中心的な問題であり、未成年者を含む若年者はあまり差別の対象とはなりません。もっとも、酒やタバコなどの嗜好品の摂取や契約などの法律行為について未成年者には種々の制約が課せられますが、これらは未成年者保護を目的とする制約であり、差別とは別問題です。

 
 とはいえ、法律上何歳を未成年者と定めるかによって、そうした未成年者保護を目的とする制約のかかる年齢層に大きな差異が生じますから、法律上の成人年齢如何は重要な問題です。それを高く設定すればするほど未成年者の範囲は広がり、制約される年齢層も広くなるため、若年者差別(保護に名を借りた転嫁的差別)の域に近づくことになります。

 
 その点、日本の法律(民法)では長い間20歳を法定の成人年齢としてきましたが、2022年4月施行の改正法により、成人年齢が18歳に引き下げられました。これは、明治時代以来100年以上も続いてきた20歳成人制度の画期的な転換です。これにより、未成年者保護に関する法令の適用も大きく変化するからです。
 このような大転換を決めた真の理由は定かではなく、諸国では18歳成人とする例が多いからなどとされていますが、先行して行われていた選挙権年齢の18歳への引き下げに合わせた改正と見られます。

 
 何歳を成人とするかは国の政策の問題とも言えますが、全く適当に決めてよいわけでもありません。成人と呼ぶにふさわしい身心の発達が標準的に備わっている年齢を成人とみなすべきでしょう。そう言ってもまだ決め手に欠けますが、私見は旧法の20歳でも新法の18歳でもなく、19歳とするのがよいと考えています。
 19というのは中途半端な数字に見えますが、日本の現行教育制度上、18歳ではまだ多くは高校生であるところ、19歳になると多くは大学生その他の学生または有職者となりますから、成人とみなすにはちょうどよい頃合いではないかと思うのです。

 

例題6:
[a]あなたは未成年者に選挙権を与えない選挙制度は正当だと考えますか。

 

(1)考える
(2)考えない


[b]([a]で「考える」と回答した人への質問)その理由は何ですか(自由回答)。


 基本的な権利の上で未成年者と成年者とを最も大きく隔てているのが選挙権の有無ですが、例題5でも触れたように、日本では公職選挙法民法より先に改正され、いったんは選挙権年齢が当時は未成年であった18歳に引き下げられたことで、本例題[a]の意義はいったん失効していました。しかし、民法の改正に伴い、18歳成人とされたため、再び未成年者の選挙権は失われる結果となり、例題の意義が復活したことになります。
 
 その点、おそらく現時点では、未成年者に選挙権を与えない制度は正当との回答が大方かと思われます。その理由として、成人年齢が18歳とされたことで、未成年者の範囲が17歳以下に引き下がったこともあり、その年齢層の未成年者は未熟であり、政治的な判断能力を欠いているからという能力問題が挙がってくるでしょう。すると、これは能力差別の領域に入ってくる問題になります。
 
 しかし、果たしてそう断言できるものでしょうか。極論すれば、政治・経済について非常によく学んでいるませた15歳のほうが、政治的に無関心で無知な51歳よりも政治的な判断能力を備えているとみなすことはできないでしょうか。
 さらに、現代では、上述した未成年者の保護に関わる種々の法律のほか、少年法のように未成年者の刑事処分に関わる法律など、未成年者の権利・義務を規定する法律が多数存在することからしても、未成年者自身の意見も反映させるべく、未成年者に選挙権を与える理由はあります。
 
 もっとも、20歳選挙権時代には、20歳に一歳足りないだけの19歳に選挙権を与えないことの不合理性が顕著でしたが、18歳成人‐選挙権となった現在では、17歳以下に選挙権を与えないことは政策として問題ないという理解もできるかもしれません。その意味で、本例題の意義は旧版当時よりは減殺されたと言えます。

 
 ちなみに、被選挙権に関しては、日本の公職選挙法はその下限年齢を25歳(参議院議員都道府県知事については30歳)としています。被選挙権は公職選挙に立候補し、当選後は議員や首長に就任する権利ですから、より高度な政治的判断能力と活動能力とが必要とされ、成年者であってもそうした能力に欠けるとみなされる24歳以下のいわゆる若年成人には被選挙権を与えないという趣旨でしょう。
 
 しかし、被選挙権についても果たして一律にそう決めつけてよいのでしょうか。ここでは、成人でも24歳以下は被選挙権を持たないことになるので、未成年者差別を超えたより広い若年者差別とみなすこともできます。場合によっては(例えば市町村議会議員の場合)未成年者にさえ被選挙権を与えてよいのではないかという疑問もあり得るところですが、この問題にここで深入りすることは避け、宿題とします。