差別克服講座

様々な個人的または集団的属性を理由とする差別を克服するための日常的な努力の方法について考えるブログ

〈反差別〉練習帳[全訂版](連載第28回)

レッスン4:性差別(続き)

例題7:

[a] 国会や地方議会の議員定数の半数を必ず女性とするという制度が提案されたとして、あなたは支持しますか。

 

(1)支持する
(2)支持しない

 

[b] 企業・団体・官庁等の基幹職(企業・団体の場合、役員を含む)の半数を必ず女性とすることを義務付けるという制度についてはどうですか。

 

(1)支持する
(2)支持しない

 いわゆる両性均等割当制(以下、均等割当制)に関わる例題です。本来の理想からすれば、均等割当制のような人為的な施策に頼らずとも、自然に議員や各界基幹職の女性比率が上昇して然るべきなのですが、極めて保守的で男性支配の風土が根強い国では、放っておくといつまで待っても女性比率は低いままに抑えられがちであることから、政策的な介入として均等割当制のような施策の導入が検討されます。その意味で、この施策は女性差別の分野における積極的差別是正策であると言えます。
 
 この均等割当制に対する批判としては、女性半数が強制される結果として男性が不利になり、逆差別としての「男性差別」が生ずるということが考えられます。しかし、その点は「半数制」であるからにはお互い様であって、男性も半数とされることによって女性が不利となる側面もあるわけです。
 ただ、一律に両性半々とするのは硬直的にすぎるという批判なら一理ありますが、均等割当といっても、実際の制度化に当たっては文字どおりに5:5を厳格に強制するのではなく、5:5を努力目標として定めたうえで、例えば一方の性別が割当対象となるポスト総数の4割を下回ったときは何らかのペナルティーを科するといった形で柔軟化すれば、さほど不都合はないと考えられます。
 
 より困難な問題点として、均等割当制は男と女という性別二分法を強化する施策であって、性別二分法では分類できない性別境界上のトランスジェンダーの人々が無視されてしまうというものがあります。
 これは次のレッスン5で扱う性自認差別に関わる最新の難問です。若干先取りしますと、均等割当制における性別区分は基本的に生物学的な性別分類によりながらも、トランスジェンダーであることが客観的に証明できる場合は、その性自認に沿った待遇を認めるといった柔軟化によって対応することが考えられます。
 それでも、両性均等割当という発想自体が性別二分法を助長するという一面は残ってしまいますが、本来、均等割当制の趣旨は女性比率の向上というところに重点があることからして、性別二分法そのものをことさらに強調することを狙いとするものではないと考えることができます。
 
 均等割当制の実際の導入に当たっては、[a]のように国会・地方議会の議員から始めることには大きな意義があります。というのも、議員は国民なり住民なりの代表であるところ、両性の人口比率―女性のほうが若干多い―に照らして、女性議員比率の低さは、明らかに男性の過剰代表を結果しているからです。
 ただ、議員への就任は選挙によるため、定数そのものを均等割当にすると、各選挙区から1名の議員を選出する小選挙区制は採用できなくなるなど、一定の技術的制約が加わります。そこで、定数そのものではなく、各政党の候補者の両性均等選定を義務づけるという間接的な方策も考えられますが、この方法によると、女性候補者の落選率が高く、結果として男性優位が維持される可能性もあります。そこで、この方法によるなら、拘束名簿式の純粋比例代表制を採用するのが望ましいと考えられます。
 
 一方、[b]のように企業・団体・官庁等の基幹職まで総ざらい均等割当制を強制するのは行き過ぎであるといった批判や、女性の間でも自分は基幹職に就きたいとは思わないから、均等割当制など関心がないといった冷めた見方もあるかもしれません。
 しかし、すでによく議論されてきた問題であるため例題には取り上げませんでしたが、今なお解決されていない労働者の両性間賃金格差問題にしても、企業等の基幹職が今後も男性中心であり続ける限り、根本的には解決されないでしょう。