レッスン4:性別差別
[まとめと補足]
性別差別問題の歴史的な核心を成す女性差別に関しては、諸国で大きな落差があるものの、全体として一定以上の前進は見られ、性関連の差別問題ではこの後のレッスンで扱う性自認差別や性的指向差別などの問題のほうに関心が移っている観もありますが、底流では依然として女性差別は続いており、女性差別という核心問題は今日なお完全には克服されていないことは再確認しておく必要があるでしょう。
例題にまとめることが難しいため、本論の練習問題では触れませんでしたが、女性差別を克服するうえで根源的なネックとなるのは、それが男性の女性コンプレックスという深層心理に発していることにあります。何しろすべての男性は女性から生まれたのである以上、男性は自らの存在そのものを女性の存在に負っているわけで、女性なくして男性という存在もあり得ません。この生物学的な事実は、男性の意識下にコンプレックスを刻印します。
もっとも、例題に取り上げたように、男性も出産できるようになれば、そうした生物学的事実が大きく覆されることになるわけですが、これは現時点では一般的に実現していませんので、ここでは考察の対象外として話を進めます。
深層心理的な男性の女性コンプレックスは男性が男性である自分自身を劣等視する自己差別へは向かわずに、西欧人のユダヤ人差別と同様に、本来自らが優越視するものの劣等視、つまり女性差別へと反転していきます。
こうした反転的差別がいつ頃始まったのかは詳らかでありません。先史人類学の母権制仮説が正しいとすれば、先史時代には社会編成の上でも男性は女性家長の支配下に置かれ、女性に従属していたと推定できますが、有史前のいずれかの時期に、男性の反転攻勢が母権制の転覆と家父長制の樹立という社会革命をもたらしたものと仮定できます。以後、女性と男性の地位は逆転し、女性は男性から見下され、男性の従属物のような存在に貶められたのです。
ところで、女性差別もまた、視覚的表象すなわち見た目と無縁ではありません。例えば従来、人類の肉体美と言えばミケランジェロ作の有名なダヴィデ像に象徴されるような筋肉質の若い男性美が頂点にあり、女性の豊満な肉体は女性美の象徴として賛美されつつ、それは性的に鑑賞する対象として貶められてもきたのでした。
例題で取り上げた「母性」もそうですが、女性差別の特徴は、他の差別のように激しい迫害を伴うような差別よりは、称賛し持ち上げつつ劣等視するという屈折した利益差別の形態を取りがちであるというところにあります。女性への性暴力にしても、女性嫌悪からの犯行より、女性愛が屈折暴走しての犯行がほとんどであるのも、そのためです。ここに、男性のコンプレックスを土台とした女性差別の複雑さを看て取ることができます。
一方、女性差別の克服が困難な諸国では、女性自身の自己差別がなお残っていて、男性の女性差別と無意識の共犯関係に立っている可能性があります。女性自身が、男性と張り合うより、一部の「女性向き」の職種で活躍するか、身を引いて家庭を守ることが女性にふさわしいなどと意識しがちなのです。根強い女性差別の克服のためには、こうした女性差別への共犯的“男女共同参画”を解消することも一つのカギとなるでしょう。