差別克服講座

様々な個人的または集団的属性を理由とする差別を克服するための日常的な努力の方法について考えるブログ

〈反差別〉練習帳[全訂版](連載第46回)

レッスン9:年齢差別

〔まとめと補足〕

 例題を通じて見ましたように、年齢差別は高齢者に対する差別と若年者に対する差別とに分かれています。厳密に言えば、高齢者に対する差別も、老齢者に対する差別と就職上の年齢差別に見られるように相対的な高年者に対する差別に分けることができますし、若年者に対する差別も未成年者に対する差別と若年成人に対する差別に分けることができます。本来は、例題もそうした細分類に従って分けた方がよかったかもしれませんが、都合により、そこまではしませんでした。

 
 いずれにしましても、年齢差別という現象は、人が早熟早死の時代や、現在でもそのような状況下にある社会では表面化してくることはありません。なぜならそのような時代ないし社会では若年期は短く、また高齢者は例外的な福寿者にすぎないからです。
 従って、年齢差別は人の寿命が延び、比較的長い若年期と極めて長い高齢期―「前期」と「後期」に分類されるほどの―を経験するようになって初めて顕在化してくる長寿社会の差別現象と言えるでしょう。
 

 このような長寿社会における年齢差別は、能力差別の応用分野という位置づけにあります。なぜなら年齢の高低は能力の高低と相関関係にあると考えられているからです。高齢者の場合は老化による能力低下、若年者の場合は未熟による能力不差別の根拠となっています。
 
 ただ、すべての差別に通低する視覚的表象による差別という本質が年齢差別にも備わっています。例題でも取り上げたアンチ・エイジングという語は、その反面において「しわくちゃ」「よぼよぼ」の老齢者の容姿を蔑視しています。また女性(場合により男性も)の就職における年齢差別には、より明白に(相対的な)高年者に対する容姿差別の要素が認められます。
 これに対して、若年者に対する差別には容姿差別の要素は希薄なように見えます。しかし、ここでも未成年者の場合は一般に身体が小さく、容貌も幼いことへの見下しの視線が一定は認められるのです。
 
 このように、年齢差別は能力差別的要素と容姿差別的要素とが交差する領域でもあると言えます。そこで、その克服には能力差別とともに容姿差別について述べたところがあてはまることになります。
 表象という観点から見ますと、高齢者と若年者が差別されることは、年齢に関しては両者の中間的な青壮年の成人が最も賛美されることの反面的な結果と言えます。結局のところ、―おそらくは世界中で―「青壮年の美形」が人間の理想型として表象されているのです。その理想型から外れていればいるほどに差別の標的となりやすいと一般的には言えます。
 
 とすれば、差別の克服にとって、こうした幻惑的な表象への束縛から人間をいかにして自由にすることができるかということが課題となります。その点で、一見すると年齢という生物学的・医学的な目に見えない要素を理由とする年齢差別においても、あの「内面性の美学」や「全盲の倫理」が改めて課題克服の鍵となることが見えてきます。