差別克服講座

様々な個人的または集団的属性を理由とする差別を克服するための日常的な努力の方法について考えるブログ

〈反差別〉練習帳[全訂版](連載第16回)

レッスン1:容姿差別(続き)

例題3:
あなたが道を歩いていた時、向こうから身長140センチ未満と思われる成人(性別は問わない)が歩いてきて、すれ違った。あなたならどうしますか。

 

(1)視線をそらす
(2)視線を当てる
(3)あざ笑う
(4)つばを吐く
(5)その他(自由回答)


  この例題は、見たとおり、前回の例題1の「顔面に大きなこぶのある人」という想定を「身長140センチ未満の成人」という明らかな低身長の人に置き換えただけの変形問題です。
 容姿差別という場合、容貌のみならず身長も差別の対象となります。これを取り出して身長差別(heightism、height discrimination)と呼ぶこともできます。対応する英単語も存在するように、世界的に遍在している差別です。

 
 身長差別にあっては通常、低身長が最大の差別対象となる属性ですが、女性の場合は180センチを超えるような長身が差別対象となる場合もあります。ここには「女性は男性より高身長であるべきでない」というような女性差別的価値判断が介在しており、容姿差別に焦点を当てるレッスン1の範囲を超えるので、ここでの練習には含めません。
 また、男性でも2メートルを超えるような超長身には、感嘆を伴う好奇の視線が当てられることがあります。好奇の視線と差別の視線はしばしば境界線があいまいですが、少なくとも、低身長に対する侮蔑を伴う劣等視とは異なります。

 
 さて、本例題は前回例題の変形問題ですから、内容上はそれほど難しくありません。選択肢の選び方としても、全く同じことになります。
 復習しますと、(2)は差別一歩手前の前差別行為、(3)と(4)が明らかな差別行為、(1)が差別回避行為でした。そして、(5)の自由回答を選択して、「見ても何とも思わない」が理想的な包容行為となります。

 
 ちなみに前回の「大きなこぶ」といい、今回の「身長140センチ未満」といい、見てしまった限り「何とも思わない」わけにいかないという抵抗感を持つ向きもあるかもしれませんが、そうした「反差別抵抗性」の心理への対策は、理論編で見た「全盲の倫理」、すなわち自分自身を全盲者だと仮定して、世界の認識の仕方を変えてみることです。レッスン1の最後にもう一度振り返ります。

 

例題4:
あなたの結婚相手として、身長以外の条件に関してはどちらも申し分ないが、身長が標準より明らかに低い甲さんと、標準的な乙さんの二人の候補者がいるとして、どちらを選びますか。

 

(1)甲
(2)乙

 

 本例題もまた、前回の例題2の変形問題ですが、例題2では、「容姿の良し悪し」という漠然とした設例だったのに対し、今回は身長だけに焦点を絞っています。
 ここで注目されたいのは、身長が標準より低い人とより高い人ではなく、低い人と標準的な人の比較である点です。低い人と高い人の比較となると、例題3でも見たように、男性と女性とで身長に関する価値基準が異なる場合があり、錯綜してくるので、ここでは性別を問わず、標準身長に設定します。

 
 そのような前提で、多くの人は標準身長の乙さんを選択すると思われます。この選択は一見無難に思えます。というのも、標準身長ということは身長に関しては平凡ということでもありますから、平凡な人を選択しても差別的とは言えないように思われるからです。
 しかし、そうでもありません。本例題では、身長以外の条件に関してはどちらも申し分ないのですから、まさに甲乙つけ難い中で、身長という属性だけを偏重して甲さんを捨て、標準身長の乙さんを選択するという選択は差別的な選択と言わざるを得ないのです。

 
 ちなみに、前回例題のような漠然とした「容姿」基準と異なり、身長という「標準」には一見客観性がありそうに見えます。実際、各国で男女の平均身長というデータが公開されることがあります。いちおうそれを「標準」とみなすことはできますが、その「標準」は民族ごとに大きく異なり、また同一民族でも時代によって変遷します。
 例えば、江戸時代の日本人男性の平均身長は160センチ未満だったとされ、実際、歴代徳川将軍の遺骨の検証でもそれに近い数字が裏付けられているそうです。全世界的にも、現代人は前近代人より長身化しているようです。このように、身長という基準も決して普遍的‐不変的なものではないということを念頭に置く必要があります。
 そうであれば、本例題で何の断りもなく、「標準」と記されているのも、「容姿」基準と同様に漠然としており、絶対的な規準を立てることなどできないわけです。

 
 最後に、本例題でも、一貫して甲さんを選んでくださった方は尊敬に値します。