差別克服講座

様々な個人的または集団的属性を理由とする差別を克服するための日常的な努力の方法について考えるブログ

男女共用トイレ考

アメリカはサンフランシスコのある小学校で、全トイレを男女共用に改修する方針を決めたという。理由は、性的少数者児童への配慮。つまり、トランスセクシュアル(以下、TS)の児童は男女別トイレではどちらのトイレにも心理的抵抗を感じるのを解消するためということである。

この問題は成人の場合にもあり、公衆トイレの使用に関して、TSの人に共通する悩みとなっている。男女別トイレはTSの使用を決して禁じているわけでないが、使用に心理的な障壁を作っている点で、結果的には差別状況が生じている。
ちなみに、公園等の公衆トイレの中には、初めから男女共用のものもあるが、これは設置のコストなどの便宜的判断から共用とされているもので、差別解消策として意識的に設置されたものではない。

この差別状況を完全に解消するには、社会内に存在する全トイレを男女共用のユニセックス型に改修すべきことになるが、問題は社会的合意が得られるかどうかである。

自宅のトイレやバスの脱衣室は男女共用が常識であるが、公衆トイレ等になるとそうでないのはなぜだろうか。身近な家族であれば、男女で共用することをたいていの人は自然に受容するが、見知らぬ人との共用となる公衆トイレ等では羞恥的な抵抗を感じるということが、そのダブルスタンダードの理由であろう。

その点、学校という場は両義的で、児童生徒の仲間は家族ではないが、全く見知らぬ人でもなく、同じ学校という場を共有する身近な存在であること、また小学校段階では羞恥心も比較的弱いことから、男女共用トイレは設置しやすいかもしれない。
中学校以上の段階になると、羞恥心もじょじょに強くなるため、以下の職場のトイレなどと同様の考慮が必要になってくるだろう。

微妙なのは職場の従業員用トイレや更衣室である。これを共用するのは家族ではないが、身近な職場の同僚たちであるので、公衆トイレ等よりは男女共用としやすいであろうが、それでも抵抗感を示す職員(とりわけ女性職員)は少なからず存在するだろう。共用トイレでは盗撮等の性的犯罪を実行しやすくなる危険やそうした危険への利用者の不安も防犯上一定考慮する必要がある。

なかなか解決の難しい問題であるが、一つの妥協策は、男女別トイレと男女共用トイレを併設することである。これは職場では技術的に困難なケースもあろうが、オフィス・ビルのようなところでは、ビル内の一部トイレを共用型として明示・開放することは可能であろう(そこには共用型更衣室も併設する)。

この場合、TSの人はビル内の限られた共用トイレまで出向かなければならない不便さや、共用トイレを使用することでTSであることを周囲に知られる可能性が残る点で、不完全ではあるが、一方で非TSの人たちの羞恥心や犯罪への不安を一切考慮しない差別解消策は社会的合意を得られにくいことも事実である。

差別解消はパーフェクトであることが望ましいことは当然であるが、社会的合意を得るためには、あえて不完全さを残した策を講ずることも、前進のために必要な場合がある。特に性に関わるセンシティブな分野ではそのことが妥当する。