差別克服講座

様々な個人的または集団的属性を理由とする差別を克服するための日常的な努力の方法について考えるブログ

〈反差別〉練習帳[全訂版](連載第33回)

レッスン6:性的指向差別

レッスン6では、差別の二丁目三番地に当たる性的指向差別に関する練習をします。

 

例題1:

[a] あなたがある日、自分の子から(子がいない場合は、いると仮定して)同性指向であることを打ち明けられたとしたら、どうしますか。

 

(1)勘当する
(2)悲観する
(3)受容する

 

[b] あなたがある日、同性の親友から同性指向であることを打ち明けられ、恋人としての交際を求められたとしたら、どうしますか。

 

(1)絶交する
(2)理解はするが、交際は断る
(3)交際を受け入れる


 どのような人に性愛の感情が向かうかという性的指向「嗜好」ではない)をめぐっては種々の難しい議論もありますが、実際のところ、家族や親友など身近なところで例題のような状況が生じ、突然に問題に直面しますと、初めは当惑やショックを感じることになるでしょう。
 

 [a]の事例で、自分の子が同性指向を打ち明けたというだけで勘当に飛躍する人は現在では少ないかもしれませんが、我が子が“性的異常者”であったと知り、ショックを受け、悲観するという人は少なくないかもしれません。
 たしかに、同性指向は普遍的な性的指向ではないという点では少数派ですが、決して精神疾患でも異常心理でもなく、日本の法律上は犯罪でもありませんから―海外にはいまだに同性愛を犯罪として処罰する国もありますが―、親として悲観しなければならない理由は特にありません。外見から直ちに同性指向とわかるようなこともないので、“世間体”を気にする必要もありません。
 
 むしろ、同性指向は通常思春期以降にそれを自覚するようになった本人自身が誰にも打ち明けられず、独りで苦悩した末に、理論編でも見た自分で自分で劣等視する自己差別へ赴きやすいことから、あえて親に打ち明ける決断をしたあなたの子は、親であるあなたの理解を得て、自己差別を克服しようとしているのかもしれないのです。
 従って、あなたとしては親に打ち明ける決断をした子の気持ちを受け止め、まず何はともあれ、受容することから入っていくことが期待されています。
 
 これに対して、[b]の事例はやや複雑です。これも単に親友から同性指向の事実を打ち明けられたというだけであれば、理解することは難しくないかもしれませんが、恋人としての交際まで求められたとなると、話は違ってきます。
 もちろん、たまたまあなた自身も同性指向であれば、以後は恋人として交際することもできるでしょう。しかし、確率的に言って、あなたは異性指向である可能性が高く、当惑は想像に難くありません。
 もし、あなたが今まで親友と思ってきた相手が実は同性指向だったとわかり、友情が軽蔑に変わって絶交するというならば、それは同性指向を劣等視する差別です。
 ただ、親友が唐突に同性指向を告白し、恋人としての交際まで求めてきたことを非常識だと感じ、憤慨して絶好するとなると、劣等視とは違い、いちがいに差別と言い切れないでしょう。
 
 とはいえ、あなたの親友もあえて秘密を打ち明け、恋人としての交際まで求めてきたからには、よほどあなたに信頼と好意を寄せていたはずで、悪意があるとは思えません。従って、親友の態度をいちがいに非常識と断じることもできないように思われます。
 かといって、異性指向であるあなたが親友と改めて恋人として交際することにも無理がありますから、[b]の事例のような状況で最も妥当な包容行為は、(2)の「理解はするが、交際は断る」です。この場合、異性指向であるあなたには恋人としての交際については断る権利があるので、断ったからといって差別には当たらないわけです。

 

例題2:
あなたは職場や学校などで、同性指向の人が自らその事実を公表すること(カミングアウト)を不快に感じますか。

 

(1)感じる
(2)感じない

 
 同性指向の人たちにとって、人生の一大関門と言えるのが、このカミングアウトです。同性指向差別が依然根強い中では、カミングアウトが現在の立場・地位や名声の喪失につながるリスクも高く、重大な決断を要するからです。
 かといって、差別・迫害を恐れる同性指向の人が終生その事実を秘匿し続け、自分らしく生きることができない状態に置かれること(いわゆるクロゼット状態)は、それ自体が一つの被差別状況にほかなりません。
 
 そこで、職場や学校で自由にカミングアウトできるようになることは一つの理想状況ではありますが、ハードルは高いでしょう。そうしたカミングアウト自体を不快に感じるという人々もまだ少なくないと思われるからです。
 特に、仕事の性質上同性が多い職場や、男子校・女子校のようにジェンダー分離が制度化されている環境では「規律」の観点が持ち出されて、カミングアウトに否定的な見解が支配的であるかもしれません。
 しかし、カミングアウトによって直ちに職場や学校の「規律」が乱れるということは考えられず、「カミングアウト禁止令」のような内規または学則があるとすれば(明文化されない不文律も含む)、それは「規律維持」に名を借りた転嫁的差別と言ってよいでしょう。
 
 一方で、人は自らの性的指向を公表しなければならない義務を負うわけではありませんから、同性指向の人にカミングアウトを強制することは重大なプライバシー侵害となり、同性指向を意図的にあぶり出すような狙いが込められている場合は、そうした強制自体が差別に当たります。性的指向差別が根強い現状では、差別からの自衛策として、あえて公表しない“自衛的クロゼット”を選択せざるを得ない場合もあります。
 要するに、カミングアウトするかどうかは各人の生き方に関わる問題であり、何ぴともその自己決定に干渉することは許されないという原則は堅持する必要があります。