差別克服講座

様々な個人的または集団的属性を理由とする差別を克服するための日常的な努力の方法について考えるブログ

「高市総理」誕生の可能性

当講座に一つ自慢の種があるとすれば、2016年大統領選挙の党内予備選挙に立候補していたアメリカのトランプ前大統領がまだ泡沫のように思われていた頃、彼の勝利を半ば予見していたことです(拙稿)。同様に、日本における、言わば「女トランプ総理」の誕生を控えめに予見してみたいと思います。

現在、日本では、菅首相の事実上の辞意表明に伴う与党・自由民主党の総裁選挙を目前にしていますが、立候補を表明している人または表明する可能性のある人の中で当講座が最も注目するのは、高市早苗氏です[8日、正式に立候補を表明]。というのも、高市氏は過去の言行において、差別主義との関わりが非常に強い人だからです。

現在のところ、世論調査ではあまり人気が高いとは言えない高市氏ですが、安倍前首相の支持を得たということで、もはや泡沫候補ではなく、有力候補の一人となったという分析も出ています。

高市氏が差別主義と関わりが深いと判断する根拠となる彼女の過去の言行歴について、筆者が知り得た限りではありますが、以下、箇条的にまとめてみたいと思います。なお、各項目の:に続く付記は関連する差別の類型です。

ヒトラーの選挙戦略を礼賛する書籍『HITLER ヒトラー選挙戦略』(永田書房)(発売後間もなく国際的抗議を受け絶版)に「著者の指摘通り勝利への道は『強い意志』だ。国家と故郷への愛と夢を胸に、青年よ、挑戦しようよ!」などとする推薦文を寄せた(1994年)。ただし、本人側は「記憶がない」と釈明。:人種差別

†日本のナチズム政党(議会外団体)である国家社会主義日本労働者党の党首との面会に応じ、他の二人の同僚議員とともに写真に納まった(2011年)。ただし、本人は「不可抗力」と釈明。:人種差別

超党派議員連盟の会合で、「『さもしい顔して貰えるものは貰おう』とか『弱者のフリをして少しでも得しよう』、そんな国民ばかりでは日本国は滅びてしまう」などと発言した(2012年)。:貧困者/社会的弱者差別
*これに関連して、議員公式ウェブサイト上の「基本理念」の中で、「リスクをとって努力した者が報われる環境作り」が必要であり、「「過度の依存心を煽る政策」を廃する」と表明している。:社会淘汰論[≒優生学

†(東日本大震災後に停止されていた原子力発電所を再稼働させるべきと主張する根拠として)「福島第一原子力発電所事故で死亡者が出ている状況ではない」と発言した(2013年)。ただし、後に謝罪・撤回。:被災者差別[被災死者の存在否定]

†非嫡出子(婚外子)の相続権を嫡出子の二分の一としていた旧民法の規定について、これを憲法違反とした最高裁判所の判決について、「ものすごく悔しい」とする感想を述べた(2013年)。:出生による差別

同性結婚について、反対を表明した(2017年)。:性的指向による差別

†選択的夫婦別姓の導入に反対し、自民党国会議員の有志50人の一人として47都道府県議会議長のうち同党所属の都道府県議会議長に対し、選択的夫婦別姓の導入に賛同する意見書を採択しないよう求める文書を郵送した(2021年)。:性差別(主に女性差別)・非婚者差別

†総理になった場合、女性閣僚の比率基準を設けるかどうかを質問され、「考えていない」と明言した(2021年)。:女性差別
 *女性閣僚の比率基準を特に設けることなく、多数の女性閣僚を起用することは差別的ではないが、比率基準を明確に否定することは女性差別的である。

なお、公平を期して、筆者の知り得た限り、高市氏の唯一の反差別的言行を挙げておくと、次の履歴があります。
柳沢伯夫厚生労働大臣(当時)が、少子化問題に関連して、女性を「産む機械」と形容したことについて、「私は子供を授かれない体なので、機械なら不良品になってしまう」と批判した(2007年)。

「子供を授かれない体」という被差別属性となり得る自身の身体的な問題をあえて公表したうえで「産む機械」発言を批判したのは好感を持てますが、厳しい見方をするなら、自身が差別される側に立った時だけは声を上げる自己中心性を嗅ぎ取ることもできます。

ともあれ、高市氏は様々な差別主義と関わる言行歴をお持ちであり、さながら「女トランプ」といった観もあることがわかりますが、中でも最も深刻で、もし「高市総理」誕生となった場合、国際的にも大問題になりかねないのが、ナチズムとの接点です。もっとも、高市氏側は釈明しており、開き直っているわけではないのですが、釈明には説得力がありません。

少なくとも、明確に反ナチズムの立場なら、たとえ「不可抗力」であろうとも、ナチズムと絶対に接点を持たないように用心するはずですから、推薦文を寄せたり、関係者との記念撮影にまで応じたということは、高市氏がナチズムに一定の親近感を抱いている可能性、もっと控えめに言っても、ナチズムを容認している可能性は高いと推察できます。

ちなみに、トランプ前大統領の支持基盤にもネオ・ナチズム信奉者が含まれていることが指摘されていますが、そのトランプ氏ですら、ネオ・ナチ関係者と写真に納まっていたとか、ヒトラー礼賛本に推薦文を寄せたなどという話は聞かないので、高市氏はトランプを超えているのかもしれません。

さて、当講座は政治的な個人攻撃をする場ではないので、ここで高市批判を全面展開することはしませんが、一つの恐るべき予測として、「高市総理」が本当に誕生するかもしれないということを言わなくてはなりません。

すでに安倍氏の支持を得たということですし、党内には安倍‐高市氏と思想信条を共有する人が少なくないと言われます。問題は世論の支持が今一つなことですが、実際のところ、日本ではネオナチという言葉自体があまり知られていませんから、さして問題とされないのではないかとも思えます。その他の差別的言行についても、案外、共感してしまう日本人は少なくないのではないでしょうか。

となると、今後、総裁選が近づくにつれ、世論の支持もじわじわと上がり、候補者が乱立するなら、一回で過半数を取れなくとも、次点あるいは相対的な首位につけて決選投票に持ち込んで勝利、それとも、まさにトランプ氏のごとく、あれよあれよいう間に支持を伸ばして一回目で楽勝・・・・という可能性も決してなくはありません。
 
かつてトランプ勝利を阻止するには、メディアが派手なトランプ言動を逐一報道せず、泡沫扱いして完全に無視することだと述べましたが、高市氏についても、こうした「黙殺戦略」がある程度妥当します。

ただ、高市氏はトランプ氏と違ってSNSを通じた派手な発信をしない人なので、「黙殺」しようにもしにくい難しさがあります。せめて「初の女性総理誕生か」などと囃す報道がされないことを望みますが、望み薄かもしれません。ということで、筆者としては、杞憂に終わることを願いつつ、「高市総理」誕生を見越した心の準備に入っているところです。
 
[追記]
高市候補は第一回投票で敗退したため、本稿は杞憂に終わりましたが、議員票では二位につけるなど善戦したため、将来の総裁選に再び立候補・当選する可能性は残されていると思われます。