12歳以降の「形式的操作段階」における第Ⅱ期反差別教育を二つに区分けしたうち、おおむね15歳から18歳くらいまでの第Ⅱ期bにおける反差別教育が今回の主題になります。この年代は思春期の後期に当たる時期で、成人への橋渡しの重要な時期でもあります。
この年代に入ると、かなり抽象度の高い概念についても理解が進んできます。まさにピアジェの言う「形式的操作」の真骨頂です。差別という事柄についても、概念的理解が可能となるので、座学や討論などの方法は、この時期の反差別教育において最も有効でしょう。
この段階では、人種、性別、性的指向その他のもろもろの事由に基づく差別に関する総まとめ的な教育を行うことができます。その際、筆者が差別の分類体系として、町の地区になぞらえて整理したことが役立つかもしれません。ここで、簡単にまとめておきます。
〇一丁目::外見による差別
〇二丁目::性による差別
〇三丁目::能力による差別
*一番地:知能差別
*二番地:職業差別
*三番地:年齢差別
*二番地:職業差別
*三番地:年齢差別
〇四丁目::余所者に対する差別
*一番地:国籍差別(外国人/移民差別)
*二番地:犯歴差別(犯罪者差別)
*二番地:犯歴差別(犯罪者差別)
こうした体系的な総まとめに加えて、この段階でも体験学習的な方法はなお有効です。特に、上掲各差別における被差別体験当事者の話を聴くことが大切です。それにより、座学では限界のある当事者の苦痛を追体験することを通じ、差別がもたらす心の傷を理解することができるようになるでしょう。
ところで、この段階での教育においてやや難しいのは、生徒の形式的操作能力が発達してくる年代だけに、“自習”の形で差別的な言説に触れて、感化されてしまう危険があることです。その点、現代の高度なインターネット情報社会は、そうした悪しき“自習”の機会に富んでいることも確かです。
このような言わば「差別感化」は反差別教育への心理的抵抗を生じさせ、担当教員を批判したり、反差別教育そのものを批判し、拒絶するといった反作用に陥り、反差別教育を無効化してしまう可能性があります。このような言わば反差別教育への「抵抗効果」に対してどう対応すべきは、この段階特有の難しい課題です。
これについて特段の秘策はありませんが、「抵抗効果」を力づくで抑圧しようとするのではなく、「抵抗効果」を示す生徒が感化された言説をめぐって、他の生徒をまじえた討論の素材とすることがより効果的と考えられます。担当教員は、その討論をうまく主宰し、生徒が同輩との討論を通じて「抵抗効果」を克服できるように導くことができます。
この第Ⅱ期反差別教育bの段階を予定通りに完了すれば、反差別を実践できる若年成人が誕生するはずですが、一般の教科教育と同様、反差別教育もひとたび卒業すれば、時の経過とともにすっかり忘れてしまうという「忘却効果」にも対処する必要があります。
そこで、継続教育として、成人向けの反差別教育というものが成り立つのかどうかということも考えてみる必要がありますが、これについては年明け以降の課題とさせていただき、年末には今年度を回顧・総括するような記事を掲載する予定でおります。