差別克服講座

様々な個人的または集団的属性を理由とする差別を克服するための日常的な努力の方法について考えるブログ

反差別教育の方法論的基礎

前回記事から三か月近く経過しても、いまだ新型コロナウイルス:COVID-19は終息には遠いようです。そうした中で、ウイルス関連での心無い差別行為の実態も耳に入ってきます。どうやら、人類社会ではウイルス自体とともに、それをめぐる差別という言わば心のウイルスも並行して猛威を振るっているやに見えます。

改めて、人類の差別慣習の冷酷さに震撼するとともに、当年の本題である反差別教育の不可欠性を痛感しているところです。

反差別教育とは、差別行為を社会道徳に反する振る舞いとして認識させ、そうした行為の前提となる差別的価値観を醸成させないようにする教育のことをいいます。広い意味では、成人教育も含みますが、ここでは未成年者に対する教育に限定して論じます。

その件について、筆者は十年近く前に発表した拙論『〈反差別〉練習帳』初版において、アウトラインを示しました。しかし、これはまさしくアウトラインにとどまり、しかも日本の小中高という学制に対応した議論に終始していました。ここではそれを拡張し、特定の国の学制にとらわれることなく、子どもの発達段階に対応したより普遍的な論として展開していくことにします。

その点、上掲論考では、就学前の乳幼児期の教育という視点が抜けていました。しかし、昨年の当ブログにおける論考でも明らかにしたように、差別の芽となる色の識別能力などは乳幼児期にすでに発達を始めるので、乳幼児期の保育の段階から反差別教育の前段階が開始される必要性が想定されます。

そうした発達段階に応じた反差別教育の実効を上げるためには、方法論的な基礎付けも必要となります。その際、教育学や教育心理学といった教育実践の基礎となる知見は不可欠ですが、それに加えて、発達心理学認知心理学、さらに両者を統合した認知発達心理理論のような知見も援用される必要が出てきそうです。

また、昨年検証したエリクソン発達段階論によって中年期や老年期にも発達課題があるとするなら、こうした成人教育としての反差別教育についても構想すべきことになりますが、私見によれば、反差別教育は成人期に達してからではすでに時遅く、啓発的な働きかけにも本質的な効果はありません。識者の啓発的努力も虚しく、折からのウイルス関連差別が収まらないのもそのためです。

であればこそ、「鉄は熱いうちに打て」のたとえどおり、反差別教育は未成年期、それも早幼児期から始める必要があるのです。そのため、ここでは上掲の先行論考をさらに改訂・拡充し、2、3歳の保育期に始まり、おおむね17歳―18歳頃にかけての各発達段階別の反差別教育の課題とその方法論を具体的に探究していくことになります。