差別克服講座

様々な個人的または集団的属性を理由とする差別を克服するための日常的な努力の方法について考えるブログ

第Ⅱ期反差別教育の実践(上)

第Ⅱ期反差別教育とは、年代的に見て、おおむね12歳以降の「形式的操作段階」の時期に相応した反差別教育に当たりますが、ピアジェ発達段階論による「形式的操作段階」はかなり広範な年代をカバーするので、ここでは、この段階を第Ⅱ期aと第Ⅱ期bとに分けて考察することにします。

第Ⅱ期aは、おおむね12歳から15歳くらいまでの年代です。いわゆる思春期ですが、その前半に該当します。人間の発達において、最も変化の激しい時期の一つです。差別との関わりで見ても、たいていの場合、抽象的な思考法が発達してくるこの年代に差別的価値観の最初の形成がなされるでしょう。

それだけに、この時期における反差別教育は極めて重要です。しかも、差別的価値観を形成しようとする知的な発達性向との葛藤が生じやすく、親や教師に対する反抗期であることからしても、反差別教育が最も困難な時期でもあります。

課題としては、一つ前の段階である第Ⅰ期反差別教育でも取り上げた障碍者や他民族との交流学習をさらに高いレベルで継続しますが、この年代になると、障碍や民族のような抽象的な概念の把握も可能となってきますから、体験学習型だった第Ⅰ期に比べ、座学学習のウェートが高まります。

同時に、以前にも指摘したヴィゴツキーの理論により、子どもたちの自主的な集団学習能力を引き出すためにも、障碍者・他民族の生徒を交えた討論のような形態の学習も効果的と思われます。

さらに、この年代の子どもたちは、思春期の用語どおり、自身の性別の自覚も発達してきます。そこから、性にまつわる反差別教育の開始時期でもあります。性に基づく差別としては、大きく性別(ジェンダー)、性的自認(アイデンティティ)、性的指向性セクシュアリティ)による差別があります。

こうした個々の概念を理解するには、第Ⅱ期a段階はまだ少し尚早かもしれませんが、理解できる範囲内で基礎的な教育をすることならできます。ここでは、自分自身を題材に、自分は性的に何者であるのかを考えさせるような学習が効果的でしょう。

ただし、性的自認と性的指向性に関しては、それらを秘密にしたいという子どももあり得るところですから、強制暴露のような事態が生じないよう、教師は最新の注意を払う必要があります。同時に、性的越境者や同性愛者をタブー視すべきでないことを前提的に充分レクチャーしておく必要があります。

また、この時期の特徴として、自身の容姿への関心が高まることがあります。その反面として、容姿に基づくいじめがエスカレートしやすい年代でもあります。そのため、容姿差別に特化した反差別教育も必要です。ここでは、容姿の良し悪しということに関して絶対的な基準はなく、文化や民族、あるいは時代によっても相対的にすぎないことを理解させる必要があります。

その際、一種の心理実験として、コンピュータで人工的に作成した様々な容姿を見せたうえ、どれが最も美しい、または格好良いと感じるかを、障碍者や他民族の生徒も交えた集団内でテストしてみるのもよいでしょう。その結果がいかにまちまちか、実体験することで、この問題を本質的に理解することができるようになります。