差別克服講座

様々な個人的または集団的属性を理由とする差別を克服するための日常的な努力の方法について考えるブログ

第Ⅰ期反差別教育の実践

前回まで見た早幼児期における反差別原体験は、言わば反差別教育の準備段階のようなもので、この段階ではまだ体系化された教育は実施されません。そうした本格的な反差別教育は、おおむね6歳から7歳くらいの段階で開始されることになります。

エリクソンの発達段階論によれば、6~7歳から11歳頃までの「具体的操作段階」の年代になると、簡単な論理的思考が可能となり、物事の順序といったものが理解できるようになりますが、抽象的思考はまだできず、具体的な事物に関する思考操作にとどまるのでした(拙稿参照)。

反差別教育は、まさにこのような年代から本格的に開始されます。この最初の段階の反差別教育を、ここでは「第Ⅰ期反差別教育」と名付けることにします。第Ⅰ期反差別教育における最大の目標は、すでに獲得された反差別原体験をもとに、それをより明確に思考される経験へと高めていくことにあります。

具体的には、反差別原体験として獲得された同年代の障碍児や他民族児との交流をさらに高いレベルで継承し、交流学習として実施していきます。教科としては、「道徳」の中に含めてよいでしょう。ここでは、原体験の時とは異なり、障碍や他民族の意味についても、子どもたちが理解できる範囲で教えていきます。

すなわち、「具体的操作段階」の年代では、障碍やその原因となる疾患に関する概念的な把握は困難でも、体の動きに制約のある子どもが身近にいて、そうした子どもと友達となり、何か手助けできることを学習することはできます。

また、「民族」のような抽象的概念の把握はいっそう困難であるとしても、海外から来た子ども、あるいは両親や祖父母が海外から来た子どもも身近な友達となり得ることを学習することは可能でしょう。

こうした交流学習は、障碍児や他民族児が同じ教育過程に統合されている時に、最も効果を発揮します。その点、分離された教育課程の子どもたちを特定の時間だけ交流させる便法も無益ではありませんが、効果に限界があります。その意味で、障碍の有無や民族籍・国籍で区別しない統合教育の制度は、反差別教育の基本的な枠組みと言ってよいでしょう。

もう一つ、第Ⅰ期反差別教育の実践プログラムとして推奨されるべきは、広い意味での容姿差別への対応です。早ければ、この年代から容姿を理由とする差別的ないじめが発生する可能性があります。言わば、差別の原体験です。これを防止するには、人の容姿の多様性について学習することが有益です。

その点、障碍児や他民族児との交流は、自分とは容姿の異なる他人の存在を受け入れ、友人となり得ることを学習することに役立ちますが、それを越えて、人には様々な容姿の者がいて、それらの間に優劣はないことを学習する必要があります。

その時、そうした学習の妨げとなるのは、社会に存在する容姿に関わる優劣の価値観です。例えば、太っていることや低身長であることを劣等視するような社会的な価値尺度です。最悪なのは、こうした価値尺度を親や教師が抱懐していて、それを子どもに教え込んでしまうことです。

教師が、たとえ無意識でも、そうした差別助長教育に手を貸すことは言語同断であり、教師失格ですが、親が家庭内で差別助長育児をすることは、なかなか排除し切れません。せっかくの反差別教育の効果を減殺してしまう最大のネックです。

その対策に関して、名案はなかなか示せませんが、反差別教育の成果が上がらない子どもについては、その親と面談し、日頃家庭内で差別助長育児をしていないかどうか、しているなら、それを是正してもらう働きかけを個別にするほかないと思われます。