差別克服講座

様々な個人的または集団的属性を理由とする差別を克服するための日常的な努力の方法について考えるブログ

差別の中核世代:壮年期

これまでたびたび取り上げてきたエリクソンの発達段階理論において、40歳以降60歳代中ばくらいまでは、「成年期」と呼ばれますが、これはもう少し限定すれば「壮年期」ということでしょう。俗に言う中年期です。エリクソンの発達理論は、人間が生涯にわたって「発達」を続けるという前提に基づいていますから、おじさん/おばさんにも「発達課題」が割り振られます。

この時期の発達課題は、「育成」とされます。多くの人はこの時期には子供を含む家族を持ち、独身でも管理職の立場で後輩をとりまとめるような立場に就く人が増える年代です。つまり、広い意味で「世話人」世代です。

また継続的に就労していれば、貯蓄・財産もある程度蓄積され、経済的にも人生の中で最もピークを迎える年代に当たります。言い換えれば、物心両面において守るべき者/物が増える年代と言えましょう。

このことが、差別との関わりでどのような意味を持つかが、ここでの問題です。一般に、守るべき者/物が増えていけばいくほどに、守るべき者/物を脅かす存在に対しては、攻撃的になります。すなわち、家族や財産にとって脅威となるものに対する警戒と排斥の感情が強くなるのです。

家族と財産に対する直接的な脅威としては、窃盗犯や殺人犯に代表されるような犯罪者が想起されます。ほかにも、労働市場で競争相手となる移民や外国人も経済的な面で脅威となり得ます。またいささか抽象的な次元では、生殖に基づく家族の枠外にある同性愛者のような性的少数者も、家族制度を脅かす存在とみなされることがあります。

壮年期の人間は、こうしたかれらが守るべき者/物に対する脅威となる存在への排斥感情をベースに、犯罪者厳罰化や移民・外国人排斥、反同性愛などの差別的な言説を展開するオピニオンリーダーとなり、あるいは投票行動を通じて排斥に賛成する匿名の潜在的な世論形成者となる世代と言えましょう。

言い換えれば、親や上司、政党幹部などとして各種差別の中核的な世代となるのが40代から60代くらいまでの壮年期世代であり、実際、各種の差別的排斥運動のリーダー格の多くも、この世代に属しています。ちなみに、差別に対抗する反差別運動のリーダー格には一つ前の若年成人世代の姿も目に付くので、ここにはある種の世代間対立状況もあるかもしれません。

いずれにせよ、「育成」を発達課題とする壮年期世代が差別の中核世代として下の世代をリードする構造は、差別克服にとって大きな障壁となります。下の世代は上の世代から指導され、学習する立場にありますから、壮年期世代を通じて、下の世代が差別的に「育成」されてしまう構造があります。

特に、壮年期世代のリーダーの中から、かつてのヒトラーのようなカリスマ性を備えた強力な扇動家が現れると、文字通り社会全体が反人道的な差別政策に誘導され、取り返しのつかない蛮行へ突き進んでしまうことがあり得るのです。アメリカのトランプ大統領も、世代的には壮年期を過ぎた“前期高齢者”世代ながら、移民排斥を中心に差別の指導者・王としてアメリカ社会を扇動し、移民に開かれた国を国境の壁で閉ざされた国に改編しようとしている状況です。

逆に、差別克服という観点から見れば、差別の中核世代が率先して差別克服に取り組むことで、下の世代もまたそれに続いていく可能性が開かれるはずなのですが、心理学的には悲観せざるを得ない事情があります。というのも、人間の発達はいかに生涯にわたるとはいえ、壮年期に始まる加齢による思考の硬直化という生理的な壁の克服が困難だからです。

すなわち、中年に達してから、体質的にしみこんだ差別的価値観を除去し、差別克服の道に方向転換するということは、頭で考えられるほど容易ではないのです。トランプ大統領を説得して、移民に寛容な政策に転換してもらうとか、日本の幹部政治家に陳情して、日本の入管行政の非人間的処遇をやめさせるといったことは、ほぼ望み薄ということになります。ではどうしたら?ということが、次の課題です。