女性差別発言がきっかけで森喜朗会長が辞任に追い込まれた東京オリンピック・パラリンピック組織委員会で、今度は、開閉会式の企画、演出で統括役を務めるクリエーティブディレクターの佐々木宏氏が女性タレント・渡辺直美氏の容姿を侮辱する発言をしたことを理由に辞任する事態となりました。
とはいえ、会合での発言を問題視された森氏とは異なり、佐々木氏の場合は演出関係者のLINEグループでの書き込みというかなり私的な場での発言が理由とされていることが特異な点です。
佐々木氏自身の謝罪文によると、「渡辺直美さんに対する演出アイデアの中で、宇宙人と地球人の接点的な役柄で、オリンピックの使者的キャラということで、オリンピックの語尾をピッグという駄洒落にして、オリンピッグという名前のピンク色の衣装で、耳がぶたのはどうだろう、というような発案」をしたとのこと。
これが本気だったのか、冗談半分だったのかは不明ですが、如上の幼稚な「提案」がそのまま演出されていれば、日本人の差別問題に関する意識レベル―というより、そもそも精神的成熟度―の低さを示し、世界を呆れさせ、どなたか御仁の言われた「民度の高さ」どころか、「民度の低さ」をさらけ出すことになっていたでしょう。
そういう事態が未然に防がれたことは、幸いだったと言えます。それにしても、オリ・パラ組織委を牛耳る電通人脈を代表する佐々木氏の発想の酷さ、特に言語感覚の稚拙さには(たとえ冗談だったとしても)呆れますが、そういうコネクション絡みの論評は当ブログの本題から逸れるので、回避します。
今回の一件で注目されるのは、容姿差別が正面から問題となったことです。森氏を含め要職者が何らかの差別的言動を理由に辞任に追い込まれる事態は、世界中でしばしば発生していますが、ほとんどは森氏のような性差別か、もしくは人種差別が理由です。
容姿差別を理由に要職者が辞任したという話は海外でもほとんど耳にしたことがありません。差別に敏感な諸国でも、容姿差別はさほど重要な差別とは認識されていないのです。それに対して、当ブログは容姿差別こそ、差別の一丁目一番地とする立場を掲げて孤軍奮闘してきただけに、今回の一件は感慨深いものがあります。
ただ、今回の問題は太め女性の容姿を豚になぞらえて揶揄したということで、性差別の亜種と解釈できないこともありませんから、一義的に容姿差別事象とは言えないかもしれません。とはいえ、太った人を豚呼ばわりするのは、小学校レベルのいじめでも典型的な例ですから、やはり一丁目一番地一号の差別と言えるでしょう。
もう一つ指摘したいことは、容姿差別を逆手にとって芸能化する風潮についてです。自身、渦中の人となり、「驚いた」とコメントした渡辺氏自身もそうした「逆手芸能人」の一人として、大活躍中の方です。
かつて、身体障碍者を見世物としてサーカスなどのショウに出演させるフリーク・ショウというものが世界で見られましたが、男女を問わずユニークな容姿の芸能人が活躍する現代の芸能界は、さながらモダン・フリークショウと言えるかもしれません。実は、佐々木氏の酷い「提案」も、こうした風潮の中から生じたものとも言えます。
そうした風潮は、差別克服にとってプラスなのか、それとも足を引っ張るマイナスなのか。判断は微妙です。現在では衰退したフリーク・ショウも当時の障碍者にとっては数少ない社会的認知と社会参加の場でした。現代の「逆手芸能人」も、一般社会では差別されるかもしれない容姿の人にとっては社会に認知されるルートの一つと言える面もあります。
「逆手芸能人」を否定するつもりはありませんが、昔のフリーク・ショウ同様、やはり副作用もあるでしょう。今回の一件はその事例とも言えます。佐々木氏は私的な場で調子に乗りすぎて暴走したため墓穴を掘っただけとも言えます。これをきっかけに、こうした問題についての社会の認識が深まることを期待します。