差別克服講座

様々な個人的または集団的属性を理由とする差別を克服するための日常的な努力の方法について考えるブログ

〈反差別〉練習帳[全訂版](連載第32回)

レッスン5:性自認差別

[まとめと補足]

 性自認に基づく差別は、登場する用語と概念が難解かつ紛らわしいことが難点となっています。一般に知識不足は偏見の元になりやすいですが、性自認差別は特に知識不足や誤解が差別的偏見に直結しやすい分野と言えます。
 例題の中でも、よく混同されるトランスジェンダーと同性指向(いわゆる同性愛)の相違を見ましたが、ここで、さらに二つの紛らわしい概念を見ておきます。

 
 一つは異性装です。これは異性の服装を日常的にする習慣のことです。いわゆる女装や男装です。これは文字通り、服装だけの話ですから、服飾の趣向にすぎず、異性装をする人がトランスジェンダーか、同性指向あるいは異性指向、両性指向かは問いません。それらのどれでもあり得るので、ご本人の自己認識次第となります。

 
 もう一つはインターセクシュアルです。これは医学用語で「性分化疾患」とも呼ばれ、要するに、男女の生物学的な性別が生まれつきはっきりしない状態をいいます。人類は両性具有生物ではないので、通常は誕生した時に生殖器の形状で男女が分かれますが、時に明確でない状態、すなわち性的未分化で生まれることがあり、それが性分化疾患です。
 従って、これは治療を要する疾患であって、性自認性的指向とは別問題です。インターセクシュアルの人がどのような性自認性的指向を持つかは、その人次第ということになります。従って、生物学上の性別とは反対の性への転換手術を受けることを望むトランスセクシュアルとも混同されてはならないことに留意する必要があります。

 
 ちなみに、近年は男女いずれの性自認も持たず、どちらでもあるような中間的な性自認を持つことをX(エックス)ジェンダーと呼ぶようです。ただし、これは日本発の用語で、英語圏ではインタージェンダー(intergender)に相当すると思われます。
 これもトランスジェンダーと紛らわしいのですが、トランスジェンダーが男性または女性いずれかの性自認は持っているのに対し、インタージェンダーは自身をどちらでもない言わば中性と認識している点に相違があります。

 
 なお、同性指向を含めた性的少数者全般を英語の頭文字でLGBTIなどと総称することも普及してきましたが、このうち、レッスン6で扱ったのは主にT(transgenderまたはtranssexual)及び補足的にI(intersexual)でした。
 続くレッスン7では、最初の三文字L(lesbian)、G(gay)、B(bisexual)に関わる問題を扱います。