差別克服講座

様々な個人的または集団的属性を理由とする差別を克服するための日常的な努力の方法について考えるブログ

〈反差別〉練習帳[全訂版](連載第49回)

レッスン10:国籍差別(続き)

 

例題5:
外国人の永住許可や国籍取得の要件を緩和する改正法案が提起されたとして、あなたは支持しますか。

 

(1)支持する
(2)支持しない


 [a]の法案は、合法的に入国して日本に一定期間定住している外国人が永住許可や国籍をより簡単に取得して、日本社会の一員となることを容易にしようとする法案です。これは外国人を社会へ迎え入れ、事実上海外からの移民コミュニティーの存在を認めることにつながる包容政策の代表的なものと言えますが、実際に法案として提起されれば、かなりの論争を招くことは確実です。

 
 外国人の永住や帰化の要件は国によって大きく異なりますが、日本はいずれも厳しく、永住や帰化が難しい国とされています。ここで複雑極まる外国人関係法令の詳しい解説はできませんが、ごく簡単に最も原則的な要件を挙げると、次のようです。

 

〇永住許可の要件

10年以上在留していること(日本人の配偶者がいれば3年以上、日本への貢献が認められれば5年以上)
独立した生計を営むに足る資産または技能を有すること
その者の永住が日本国の利益に合致すること
身元保証人がいること(永住ビザの取得要件)


〇国籍取得の要件

引き続き5年以上日本に住所を有すること
18歳以上で、本国法(帰化前の母国の法令)によって行為能力を有すること
素行が善良であること
自己又は生計を一にする配偶者、その他の親族の資産又は技能によって生計を営むことができること
国籍を有さず、又は日本の国籍取得によって元の国籍を失うべきこと
日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを企て、若しくは主張し、又はこれを企て、若しくは主張する政党その他の団体を結成し、若しくはこれに加入したことがないこと。

 
 ご覧のとおり、いずれもハードルが高く、かつ「国益合致」(永住)や「素行善良」(国籍)など、行政による裁量性の強い曖昧な要件も付加されており、日本が移民の存在に拒絶的であることは明白です。そこで、こうした要件を緩めて、もっと永住許可や国籍が容易に取得できるようにするというのが改正法案の趣旨です。

 
 どのように、またどの程度緩和するかは政策的な問題になりますが、例えば上掲の曖昧な要件を外すことは最小限度の緩和になるでしょう。より踏み込んだ緩和としては、10年以上(永住)、5年以上(国籍)という居住期間の原則的な要件を短縮することです。さらに、出身国との二重国籍を容認することは、より踏み込んだ緩和となります。

 

例題6:
[a]「永住外国人には国政選挙における選挙権(投票権)を保障する」という趣旨の法案が提起されたとして、あなたは支持しますか。

 

(1)支持する
(2)支持しない

 

[b]「一定期間国内に居住している外国人に対しては、その居住地の地方自治体の選挙権(投票権)を保障する」という趣旨の法案については、どうですか。

 

(1)支持する
(2)支持しない 


 本例題が問題とする外国人への参政権の保障は理屈として困難な点がより多いです。主権は国民にあるという国民主権の公理からすれば、国民が国政選挙の選挙権を有することは民主国家の基本とされますが、外国人が国政選挙の選挙権を持たないことは自明とされてきたのです。
 そのため、国政レベルの参政権は国籍保持者に限定されるという考えがなお世界的にも根強い一方、地方参政権については一定の居住要件を満たす外国人にも保障する国がかなり出てきています。 
 
 ただ、税金に関しては、国も自治体も国民と外国人を区別せずに徴収しているわけで、「取るものは取るが、与えるものは与えない」というのは虫が良すぎるとも言えます。
 税金は国民か外国人かを問わず“平等に”徴収するというならば、税金の使い道を正すための選挙権(投票権)についても外国人、とりわけ社会の一員として定着している永住外国人には平等に保障するのが本筋ではないでしょうか。代表なくして課税なし。これは議会制度の歴史的な原点でもあったはずだからです。
 
 とはいえ、[a]のような国政レベルでは外交・安全保障も一応選挙の争点となり得る―実際にはほとんどなりませんが―ことからすると、たとえ永住者であっても、国政レベルの選挙権を外国人に保障することには否定的な国がなお圧倒的です(少数の例外として、ニュージーランドやチリなど)。これは、国民国家体制の超え難い限界と言えるでしょう。

 
 他方、[b]のように外交・安全保障がそもそも争点とならない地方レベルについては、少なくとも選挙権を一定期間居住する外国人に保障することに決定的な障害は認め難いと言えます。
 なお、被選挙権に関しては別途考慮の余地がありますが、少なくとも市町村議会の議員の被選挙権に関しては、一定期間居住する外国人にも拡大することに重大な障害はないと思われます。
 
 ただ、ここでも国籍で区別して、国交のない国の国籍保有者は除くという妥協策はあり得ますが、このように国籍の違いで参政権の有無を分けると、外国人参政権の内部に国籍による差別が持ち込まれます。それでは包容政策のはずの外国人参政権がかえって特定の外国人に対する排斥を助長する逆効果を持つことになり、真の包容政策とは言えません。