差別克服講座

様々な個人的または集団的属性を理由とする差別を克服するための日常的な努力の方法について考えるブログ

〈反差別〉練習帳[全訂版](連載第47回)

レッスン10:国籍差別

レッスン10では、差別の四丁目一番地に当たる国籍差別(外国人・移民差別)に関する練習をします。

 

例題1:
[a]あなたの隣家に外国人一家が越してきたとして、近所付き合いをしてみたいと思いますか。

 

(1)思う
(2)思わない


[b]([a]で「思わない」と回答した人への質問)その理由は何ですか(自由回答)。


 本例題は、近所付き合いそのものが希薄化している時代にはあまり意義のない練習かもしれません。「私は隣家が日本人だろうと外国人だろうとおよそ近所付き合いなどするつもりはない」というならば、平等主義の“近隣絶交宣言”ですので、差別には当たりません。これも、地縁が希薄化した時代における一つの現代的な差別回避行為と言えるのかもしれません。
 

 そこまで徹底はしないけれど、外国人一家とは近所付き合いをしたいと思わないとしたら、なぜでしょうか。「外国人は言葉が通じないから」という実際的な理由なら差別とはひとまず無関係ですが、もし隣家の外国人一家が日本語を話せる人たちであったとしたら?
 「外国人は怖いから」という理由なら偏見的とはいえ、それは危険視であって、劣等視ではないから、辛うじて差別には当たりませんが、差別一歩手前の前差別行為には当たります。
 「外国人は日本の慣習を知らないから」という理由などもあり得ますが、それは事実である場合もあるにせよ―日本の慣習を熟知する外国人もいます―、付き合う中で日本の慣習を教えることもできますし、一方で、日本人側が外国人の慣習(特に宗教的慣習)を知り、尊重することも必要ですから、こうした文化的理由を持ち出す形の外国人忌避は転嫁的差別となります。
 

 一方、その隣家の外国人一家が黒人だからとか、アジア系だからといった理由で近所付き合いを忌避するのだとしたら、これは実は外国人差別の形式をまとった人種/民族差別であることになり、遡ってレッスン3の問題です。
 実際上、日本における人種/民族差別は直接的に表面化するよりも、こうした外国人差別の中に潜り込むような形で立ち現れてくる例がほとんどです。そのため、「日本社会に人種/民族差別は存在しない」という錯覚も生じやすいわけです。

 

例題2:
あなたがアパートの家主だとして、外国人が入居を申し込んできたら、入居を認めますか。

 

(1)認める
(2)国籍によっては認める
(3)認めない


 借家、中でも賃貸事業者のような法人組織ではなく個人の家主が提供する借家では、家主と借主の間の継続的な信頼関係が重視されるため、家主として借主の属性・素性に関心を持つのは自然なことです。
 それにしても、外国人の入居は一切認めないとなると、これはもはや「外国人は怖いから」というような危険視を超えて、外国人という属性そのものを劣等視し、排斥する差別とみなすほかありません。
 
 ただ、ここでも、例題1のような文化的理由のほか、「外国人犯罪集団のアジトに使われては困る」といった治安上の理由などが持ち出されることがあるかもしれません。こうした理由付けはいずれも一部の実例を一般化して取って付けているだけで、転嫁的差別行為の典型です。
 
 それでは(2)のように国籍によって区別するという妥協策はどうかと言いますと、これも国籍による外国人差別の問題を生じます。例えば、欧米系の国籍を持つ外国人なら認めるが、アジア・アフリカ地域の国籍を持つ外国人は認めないといった方針は、特定の国の国籍を持つ外国人を劣等視し、排斥することになります。そこには、例題1でも指摘した人種/民族差別が国籍差別に仮託する形で潜んでいるとも言えます。

 
 ちなみに、日本と国交のない国の国籍を持つ外国人は認めないといった方針になりますと、いささか微妙です。日本と国交がないということは、日本国と敵対関係にある国ということになりますから、政治が絡んできます。しかし、その入居申込者の素性が実際に疑わしいといった正当な理由がない限り、国籍のみを理由とする入居拒否は差別行為に当たると考えられます。

 結局、借家に関しては、日本国民と外国人とを区別すること自体が間違っていることになります。外国人でも長期滞在・居住を考える場合は、家を購入する資力がない限り、どこかに家を借りなければならない事情は日本国民と同様であることを考えれば、これは当然の事理でしょう。
 本来、国籍に限らず、しばしば発生しがちな入居者の属性による借家差別を防止するためには、借地借家法上、借家に当たっての差別禁止を定めた条項を置くことが望ましいと言えます。
 
 なお、例題としては取り上げませんでしたが、外国人の入店を拒否するような商店も一部にいまだ存在するかもしれません。裁判にまで至った過去の実例として、ブラジル人が宝石店への入店を拒否された事例や、アメリカ人が公衆浴場の利用を拒否された事例などがあります。
 借家とは異なり、継続的な信頼関係など必要ない店舗への短時間の立ち寄りや利用を外国人だからという理由だけで拒否するのは明白な差別です。これについては多言を要しないでしょう。